公益財団法人 藤原ナチュラルヒストリー振興財団 | Fujiwara Natural History Foundation

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恐竜時代のトカゲの新種化石について 2009.07.17

著者: 真鍋 真 (国立科学博物館)

図1:「桑島化石壁」(写真: 白峰化石調査センター)
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石川県白山市桑島(旧白峰村)には、手取層群桑島層という、白亜紀前期(約1億3000万年前)に河川とその周辺に堆積した泥岩、砂岩が露出しています。この大きな崖は、「桑島化石壁」と呼ばれ、1957年に日本最古の珪化木産地として国の天然記念物に指定されています(図1)。ここでは、1985年に、手取層群で最初の恐竜の化石が見つかった場所で、その後、数々の重要な化石が発見されています。私は大学院生だった1985年から、この地層の研究に参加しています。1997年から、この崖の裏側にトンネルが掘削されました。トンネル掘削の際に出て来た岩石の一部を、化石の調査のために約11,270立米(内、動物化石を含有するのは約270立米)を取り置き、現在も継続して化石の有無をチェックしています。

図2: 毎夏、研究者や学生はもちろんのこと、ボランティアたちが集まって化石の有無を確認する作業をします(写真:白峰化石調査センター)
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図3: 小さな化石にも意外な重要性が隠されていることがあるので(例えば図4の恐竜の指骨)、岩石は角砂糖大になるまで割って、化石の有無を確認する(写真:白峰化石調査センター)
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図4: 恐竜の指骨の化石とアートナイフ(写真: 白峰化石調査センター)
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この標本の詳細はManabe et al. (2000) Nature 404: 953を参照下さい。

桑島化石壁の近くの化石調査センターには、常勤の調査員が1名いて、年間を通じて、調査やアウトリーチ活動を行っています。年1回、夏には、研究者や学生、ボランティアが集まり(図2)、岩石を時には角砂糖くらいの大きさまで細かく割って、化石の有無を確認します(図3)。化石が見つかると、印を付けられて保管されて行きます。化石はさらに、顕微鏡下で、クリーニングという、まわりの岩石を削り、化石を取り出す作業が行なわれます。歯科で使われる電動器具も使われますが、繊細な化石の間際では替え刃式のアートナイフが使われます(図4)。通常は紙を切る様なナイフで、刃を替えながら、岩石を少しずつ削って行きます。時にはのべ何十時間ものクリーニング作業を経て、やっと歯や骨の化石を、様々な角度から観察出来るようになります。そして、ようやく化石の比較形態学的な研究がスタートします。

さて、今回は、最新の研究の成果の一例として、新種のトカゲ化石について紹介します。この化石と新種名は、英国古生物学会誌Palaeonotologyの51巻2号(2008年3月14日発行)に掲載された"An early herbivorous lizard from the Lower Cretaceous of Japan"(日本の下部白亜系から産出した初期の植物食トカゲについて)という論文で発表されました。著者は英国のUniversity College LondonのSusan E. Evans教授と真鍋です。

【新種名】
Kuwajimalla kagaensis クワジマーラ・カガエンシス
【学名の意味】
ラテン語で「加賀の桑島の小さな乙女」という意味。
【標本】
現在確認されているのは白峰化石調査センター(石川県白山市桑島)所蔵の11点の頭部、下顎の骨及び歯化石。
【推定全長】
約25~30センチメートル
【分類】
爬虫類 トカゲ類 ボレオテュー上科(注1)
【新種の主な特徴】
(1) 頬部の歯は、槍の先のような形をしており、その切縁にはギザギザがある(図5)
(2) 頭頂骨と前頭骨がしっかり関節しており可動性が乏しい(図6) など
【産地】
石川県白山市桑島
【地層】
手取層群桑島層
【時代】
中生代白亜紀前期(約1億3000万年前)

図5: クワジマーラの下顎の歯のクロースアップ。歯の長さ=約2mm(写真: 白峰化石調査センター)
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図6: クワジマーラの頭頂骨(後頭部の骨)。頭頂骨の前端(写真の上端)がギザギザしていて、その前の前頭骨としっかりと関節していたことがわかる。骨の長さ(上下長)=約10mm(写真: 白峰化石調査センター)
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注1: トカゲとは、ボレオテュー上科とは?

トカゲ類の最古の化石はインドの三畳紀後期(約2億2800万年前)の地層から発見されたTikiguaniaティキグアニアとされています。トカゲ類はジュラ紀に世界的に分布を広げ、現代まで繁栄しています。クワジマーラが含まれるボレオテュー上科は、クワジマーラが一番古い化石で、白亜紀にアジア、北米に分布していました。白亜紀末に絶滅して、現生種はいません。南米に現生するテグートカゲなどを含むテュー科に近縁だと考えられています。

この化石の意義をいくつか挙げてみます。

1. 中生代のトカゲの新種としては日本で三例目

日本で中生代(恐竜時代)のトカゲの新種が報告されるのは、テドロサウルス(福井県福井市: 1967年に命名)、サクラサウルス(岐阜県高山市荘川町: 1999年に命名)に次いで三例目です(テドロサウルスは標本が公開されていないことから学名が無効だと見なされることが多いです)。

2. クワジマーラは、歯の形から植物食だと考えられます。

クワジマーラの歯はイグアナの歯の形と類似していることから、主に葉を食べていたと推定されます。爬虫類はもともと肉食で、先が尖ったナイフ状の歯をしているのが基本形です。植物は肉よりも消化しにくいため、植物食の動物の歯は咬合面がひろく、大きくなければなりません。また、植物は消化に時間がかかるため、体内でゆっくり消化するための大きな胃腸が必要になります。体の小さなトカゲが植物食になるのは珍しいと考えられます。現生種のトカゲのなかで植物食トカゲは、全体の3%未満と珍しい存在です。

3. 世界最古の植物食トカゲです。

図7: クワジマーラの生体復元想像図の一例。周囲の植生は、桑島層から化石が産出しているシダ植物(オニキオプシス)。Copyright© Utako Kikutani.
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これまで最古の植物食トカゲとされていたものは、クワジマーラと同じボレオテュー上科のDicothodon ディコソドン(北米、白亜紀中頃: 約9960万年前)でした。クワジマーラの発見により、植物食のトカゲの最古の化石記録は、およそ3000万年遡りました。現生種の植物食トカゲは裸子植物やシダ植物などよりもやわらかく、栄養価の高い被子植物を食べています。被子植物の最古の化石は中国遼寧省の熱河層群のもので、約1億2000万年前のものだとされています。手取層群の桑島層からはまだ被子植物の化石は発見されていないのですが、クワジマーラのようなトカゲ(図7)が存在したのは、栄養価が高くて、やわらかい被子植物が、すでに出現していたことを示唆しているのかもしれません。

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当財団は、ナチュラルヒストリーの研究の振興に寄与することを目的に、1980年に設立され、2012年に公益財団法人に移行しました。財団の基金は故藤原基男氏が遺贈された浄財に基づいています。氏は生前、活発に企業活動を営みながら、自然界における生物の営みにも多大の関心をもち続け、ナチュラルヒストリーに関する学術研究の振興を通じて社会に貢献することを期待されました。設立以後の本財団は、一貫して、高等学校における実験を通じての学習を支援し、また、ナチュラルヒストリーの学術研究に助成を続けてきました。2019年3月までに、学術研究助成773件、高等学校への助成95件を実施しました。