公益財団法人藤原ナチュラルヒストリー財団第7回シンポジウム「流れが運ぶ自然史」感想 2015.12.07
藤原ナチュラルヒストリー振興財団第7回シンポジウムは、「流れが運ぶ自然史」をテーマとして、11月15日(日)に例年通り国立科学博物館の日本館2階講堂で開催された。100名の参加者のうち半数は高校生であった。参加者からの感想は次のようであり、とても好評であった。自然史の話題を詳細に聞くことができた。わかりやすかった。どれも面白い話ばかりであった。どの講演も興味がわき、学び、驚かされた。もっと勉強したい。総合的な生物の知識が必要だと思ったなどであった。講師の先生方が熱くご自身の自然科学を語ってくださり、たくさんの刺激を講演者は受けたようである。
最初の講演は、「飛ばされ流された花粉や胞子が教える恐竜時代の環境」ルグラン ジュリアン先生(中央大学)であった。古花粉学は堆積物である岩石から粒子を抽出し、プレパラートにして花粉や胞子を探すという地味で時間のかかる研究であることにまず驚く。ルグラン先生が楽しそうに語るので研究方法の大変さを私たちは忘れそうになる。花粉や胞子は陸地から川を経て海に運ばれ、さらに海流で遠くまで運ばれて堆積し、化石となる。化石のプレパラートを調べ、日本に被子植物がいつ頃入ったのか、恐竜時代と現在の植生はどのくらい同じか違うかなど、地球の歴史までわかってしまう。
2番目は「海草は海流に乗って移動する?」田中法生先生(国立科学博物館)であった。海草をカイソウと呼ぶのは海藻と紛らわしいので、ウミクサと呼ぶそうだ。海草は陸上植物の多くの種類から進化したので多様性が大きいこと、陸上植物が海に戻ったことを知る。講演の最初から驚きの連続であった。アマモやコアマモは世界中に広く分布しているが、それらの遺伝子を調べると、集団間の近縁・遠縁関係がわかってくる。遠くの海域同士が遺伝的に近縁だと、種子や、種子を持った葉が流され、拡散して定着したと推察できる。しかし、遠過ぎると、どうやって運ばれたのかわからない場合もあるらしい。鳥、人、船、津波など運び屋の謎の解明が待たれる。
3番目は「海洋を超えたアシナガバエの分散と進化」桝永一宏先生(滋賀県立琵琶湖博物館)であった。アシナガバチではなくアシナガ「バエ」である。世界中に分布している数㎜の小さなハエである。先生は日本全国のほとんどの沿岸で採集し、世界各国の沿岸でも採集して遺伝子を調べている。その足跡の長大さに感服する。世界に約7,500種いて、日本にも約600種いるが、未記載種がそのうち9割もいて発見の楽しさがある。遺伝子の解析から、陸上の一地域のハエが海に出て分散し、多様な種に分化したことがわかった。どうやって分布を広げたのだろうか。ヒントは卵や幼虫が海水適応していることらしい。身近にいるアシナガバエを探してみたくなった。
最後は「大津波と海洋生物―突然の巨大な流れが更新する沿岸環境」大越健嗣先生(東邦大学)であった。東北地方三陸沿岸の貝類などの分布調査を続けている先生は、3.11東日本大震災の津波災害の前後の貴重な海洋生物の分布データから環境攪乱のすさまじさを教えてくださった。津波の力は、海岸の砂地に深く潜って生活するオオノガイさえもごっそり掘り起こし、海へ持っていった。しかし、稚貝が成長してやがて大きくなるが、そこに再び災難がやってきた。このように、生態系は、大規模な自然災害による破壊と復活の繰り返しである。破壊から長期間かけてどのように生態系が復活していくのか、あるいは復活とは違う形で生態系が新生されるのか。昔から三陸沖で数百年ごとに起きる大津波のひとつに遭遇し、海岸生物の生態系を初めて詳細に調査しているのが先生の研究である。先生の継続調査は今も貴重であると同時に数百年後への重要なデータとなる。
4講演の流れのテーマは海の話題が多くなったが、海はひとつに繋がっており、海流は様々な生物の移動を助けてくれる優れた乗り物である。そして、海は謎に満ちていることも学んだ。
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当財団は、ナチュラルヒストリーの研究の振興に寄与することを目的に、1980年に設立され、2012年に公益財団法人に移行しました。財団の基金は故藤原基男氏が遺贈された浄財に基づいています。氏は生前、活発に企業活動を営みながら、自然界における生物の営みにも多大の関心をもち続け、ナチュラルヒストリーに関する学術研究の振興を通じて社会に貢献することを期待されました。設立以後の本財団は、一貫して、高等学校における実験を通じての学習を支援し、また、ナチュラルヒストリーの学術研究に助成を続けてきました。2024年3月までに、学術研究助成883件、高等学校への助成127件を実施しました。