公益財団法人藤原ナチュラルヒストリー財団第8回シンポジウム「土と生き物の自然史」感想 2016.12.22
藤原ナチュラルヒストリー振興財団第8回シンポジウムは、「土と生き物の自然史」をテーマとして、11月20日(日)に例年通り国立科学博物館の日本館2階講堂で開催された。106名の参加者のうち半数は高校生であった。講師の先生方のご講演は、今年は聴衆参加型もあり、また熱くご自身の研究を語って下さったことから、参加者の皆様もひきこまれたようで、講演時間をもっと伸ばして欲しいというようなご意見も多く聞かれ、好評であった。
なお、講演者の田村憲司氏は、当財団の学術研究助成を過去にお受けになられた方です。
上段左: 田村憲司氏 右: 大園享司氏 下段左: 伊藤雅道氏 右: 野村周平氏
【レポート】上田 恵介 (立教大学名誉教授・財団理事)
藤原ナチュラルヒストリー振興財団第8回シンポジウムは、「土と生き物の自然史」をテーマとして、11月20日(日)に国立科学博物館の日本館2階講堂で開催された。100名を超える参加者のうち半数近くが高校生であった。シンポジウムは講師の先生方がユーモアを交えて、熱く、ご自身のテーマを語ってくださったので、聴衆にとってわかりやすく、「土壌や土壌に住む生物の奥深い世界を知ることができた」、「とても興味深かった」などの意見を頂き、とても好評であった。また高校生からは「自然史っておもしろいなと思った」、「身近な生物がとても興味深い特徴をもっていると分かった」という感想が寄せられた。
シンポジウムは国立科学博物館動物研究部長の倉持利明さんの司会で、理事長下河邉和彦さんの挨拶からはじまった。
最初の講演は、筑波大学の田村憲司さんによる「生命を育む土壌の世界」であった。土壌とはなにか、地球に土壌のなかった時代から岩石はどのように土壌になっていったのか、そして生物の働きなしでは土壌は生まれないことを田村さんはわかりやすく語ってくださった。
続いて、同志社大学理工学部の大園享司さんからは「菌類(かび・きのこ)は落ち葉をどのように食べ、土を作っているのか?」というタイトルでお話を頂いた。そもそも菌類とはなにか? 大園さんは参加者に「自分が菌類だと思っているものを書いてください」と呼びかけ、参加者から回答をもらって、"菌"と菌類が異なることを菌糸の視点「菌目線」で語って頂いた。私たちがいかに菌類を誤解しているかがよくわかる講演であった。
15分の休憩を挟んで、3番目は駿河台大学経済経営学部の伊藤雅道さんによる「気持ち悪い?でも面白いミミズの世界」というタイトルの講演であった。30センチを超えるシーボルトミミズをはじめ、世界の巨大ミミズの紹介から、小さいものが多い土壌動物の中でなぜミミズだけが巨大化したのか、土の中を自由に動けるミミズの体の秘密、土壌の形成にミミズが果たしている役割など、私たちが初めて聞く話も含め、わくわくする楽しいお話であった。
講演の最後は国立科学博物館の野村周平さんによる「土壌甲虫アリヅカムシ(コウチュウ目ハネカクシ科)の多様性とインベントリー」であった。分類学的研究が進んでいない微小甲虫のアリヅカムシ類についてどんな方法で採集するのか、さまざまな採集方法の紹介をはじめ、いかに熱帯、亜熱帯に生息する膨大な未記載種を発見・同定していくか、アリの巣という特異な場所を生息場所に選んだアリヅカムシ類の面白さを余すところなく語って頂いた。
シンポジウムのいちばん最後に高校生ポスター研究発表の表彰が行なわれ、3時間にわたったシンポジウムは幕を閉じた。
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当財団は、ナチュラルヒストリーの研究の振興に寄与することを目的に、1980年に設立され、2012年に公益財団法人に移行しました。財団の基金は故藤原基男氏が遺贈された浄財に基づいています。氏は生前、活発に企業活動を営みながら、自然界における生物の営みにも多大の関心をもち続け、ナチュラルヒストリーに関する学術研究の振興を通じて社会に貢献することを期待されました。設立以後の本財団は、一貫して、高等学校における実験を通じての学習を支援し、また、ナチュラルヒストリーの学術研究に助成を続けてきました。2024年3月までに、学術研究助成883件、高等学校への助成127件を実施しました。