第8回高校生ポスター研究発表報告 2017.12.14
第8回高校生ポスター研究発表会では16件(11高校)の発表が行われた。
7人の審査委員が「自然史(ナチュラルヒストリー)」と「分かりやすさ」の2点に留意しながら、5段階評価を行った。
その結果、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校(2年生)の石牟禮碧衣さんによる「地球影~誰彼刻を追ふ~」が最優秀賞に選ばれた。
また、埼玉県立松山高等学校(2年生)の草野 侑巳さん、星野 直樹さん、(1年生)熊木 日向さんによる「日本産ドブガイ族の種分化とその種の同定法」と東京都立江北高等学校(2年生)の栗城 穂乃香さん他2年生6名、1年生3名による「荒川下流の扇大橋下干潟にはゴカイがどうしてたくさんいるのか?」の2件が優秀賞に選ばれた。
今年も良い研究が多く、賞に選ばれなかった発表も僅差であり、さらなる発展を期待している。
【レポート】窪川かおる (東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター特任教授・財団理事)
第8回高校生ポスター研究発表が2017年11月19日(日)11時から上野の国立科学博物館大会議室で行われた。東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、島根県から16件、11校が日ごろの研究成果を発表した。個人研究もグループ研究もあり、会場は大勢の高校生の熱気に溢れた。
発表のテーマは様々で、自然史の広大さを示していた。どの発表も説明が上手で、質問にもすぐに明確な回答を返してくれた。彼・彼女の研究になっていたのは素晴らしいことであった。そこで、一言ずつ感想を記したい。
- 1 ヒツジグサの花の開閉法則を探る
- 2 多摩川中流におけるカモ類の生態分類
- 3 マウス腸内フローラから健康食品の機能性を探る~マヌカハニーと食物繊維で腸内フローラを整える~
- 4 マヌカハニーの口腔常在菌に対する抗菌効果~マヌカハニーはオーラルケアに役立った!~
- 5 絶滅危惧植物インドオオイシソウの生育調査と培養の試み
- 6 カワモズクの培養
- 7 クラゲの海水比重耐性実験
- 8 食べるだけじゃない、新たなキノコの可能性~食糧・環境・エネルギー~
- 9 菌糸の拮抗線はどのようにできるのか
混合培養したキノコの拮抗線は組み合わせによって変わることがわかったので、原因究明はこれからの楽しみだ。
- 10 アメリカザリガニの採餌行動について
- 11 雷雲発生時の状況と雨量の関係
- 12 地球影~誰彼刻を追ふ~
- 13 日本産ドブガイ族の種分化とその種の同定法
- 14 荒川下流の扇大橋下干潟にはゴカイがどうしてたくさんいるのか?
- 15 プラナリアの再生能力の強さと飼育水の関連性について
- 16 アボカドの着色劣化現象をUVクリームの機能性評価に用いる研究
ヒツジグサの花の開閉時刻と気温とに関係があることを明らかにした研究は、観察の正確さが反映された見事なデータで説得力があった。
多摩川中流での3年間にわたるカモ類の観察は、鳥好きにから研究へと一直線だった。
ニュージーランド特産の自然食品マヌカハニーと食物繊維を同時摂取すると腸内フローラのバランスがよくなることを発見したり、マヌカハニー入り歯磨は、その成分量に応じて口腔常在菌への抗菌効果があることを発見したり、マヌカハニーの抗菌効果が日本の高校で研究され発展していることは素晴らしい。
絶滅危惧植物インドオオイシソウの培養は、11年の長きにわたる先輩達の努力が実り、この度成功したという嬉しい発表だった。
カワモズクの培養は、地味な取り組みだが地域の特産品を目指して工夫と挑戦を続けており成功を祈らずにはいられない。
ミズクラゲは成体もポリプも海水濃度の変化に敏感という研究結果を聞くと、クラゲの飼育は大変だったと思う。
白色腐朽菌の菌糸の成長は培地組成に影響される結果が得られ、大量培養に向けて大きく前進した。
アメリカザリガニの採餌行動と餌の大きさの研究は、ゴム塊の噛み跡を数えたりして、関係があることを見つけた。身近な動物も未知がたくさんある。
雷雲発生は気象条件と関係すると思うのは容易だが、明確な法則性を探す研究はデータ収集が大変だ。
地球影の生成メカニズムを観察と計算で実証する挑戦は、自然史の研究で見事だった。
(11・12 雷も地球影も特別なイベントの魅力と共に複雑で面白い。)
ドブガイ族の生物地理学的研究は、分子系統樹と地域分布との矛盾の原因を追究し、精度の高い同定法に至る。矛盾の発見も研究の醍醐味である。
ゴカイの生息環境と体重の関係を調べるために、実験では一匹ずつ体重測定している。仮説も実験も楽しい。
プラナリアの再生能力は塩分・糖分濃度と関係する結果は、自由な発想の大切さを研究で示している。
アボガド果肉が紫外線に敏感なことをUVクリームの品質検査に応用できることが分かった。地球に優しい研究に期待したい。
以上、どの発表も素晴らしかった。
その中で、参加理事の採点により3件が選ばれた。
最優秀賞は、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校2年石牟禮碧衣さんの「地球影~誰彼刻を追う~」であった。自然の謎を観察と理論で追求する自然史らしい研究であった。
優秀賞は、埼玉県立松山高等学校2年草野さん、星野さん、1年熊木さんによる「日本産ドブガイ族の種分化とその種の同定法」と、東京都立江北高等学校2年栗城さん、岡本さん、角田さん、三森さん、窪田さん、上野さん、宝田さん、1年大塚さん、坂本さん、金瀧さんによる「荒川下流の扇大橋下干潟にはゴカイがどうしてたくさんいるのか?」であった。生物の特徴をよく把握し、自然のダイナミクスに着目し、知恵も労力も使って仮説を導き出しているところが良かった。
高校生の創意工夫に富む研究と、明瞭で的確な説明を聞くと、専門家も初心を忘れずという気持ちになる。
【最優秀賞】
地球影~誰彼刻を追ふ~
最優秀賞を頂けたこと、大変嬉しく思います。一人でこのテーマを始めた時は研究として成り立つか不安でしたが、このように評価して頂けて励みになりました。またこのテーマについて多くの人と話をする貴重な機会を得られたのも刺激となりました。頂いたアドバイスを参考にしながら、これからも研究を進めていきます。
【優秀賞】
日本産ドブガイ族の種分化とその種の同定法
優秀賞を頂いたことを嬉しく思っています。しかし、最優秀賞でなかったということは、私達の研究にはまだ不十分な点があるこということです。審査員の先生にご指摘いただいたアドバイスを踏まえて、今後の課題を検討し、更に良い研究に発展できるようにしていきたいと思います。
荒川下流の扇大橋下干潟にゴカイがどうしてたくさんいるのか?
今回は、このような賞をいただきありがとうございました。部員みんなで考えた仮説が当たらなかったり、実験が失敗したりと、至らぬ点が多いポスター発表だったのですが、むしろ試行錯誤なところがよいとほめていただき、とてもうれしかったです。今後もたくさんの失敗をしながら、そこに改善を加えて、地道でも結果を得られるよう努力していきたいと思います。
窪田 貴幸, 上野 来夢, 宝田 智也, 大塚 久鈴,
坂本 龍寿, 金瀧 健太郎
第8回高校生ポスター研究発表・参加校一覧 (PDF/635KB)東京都目黒区上目黒1丁目26番1号
中目黒アトラスタワー313
- TEL
- 03-3713-5635
当財団は、ナチュラルヒストリーの研究の振興に寄与することを目的に、1980年に設立され、2012年に公益財団法人に移行しました。財団の基金は故藤原基男氏が遺贈された浄財に基づいています。氏は生前、活発に企業活動を営みながら、自然界における生物の営みにも多大の関心をもち続け、ナチュラルヒストリーに関する学術研究の振興を通じて社会に貢献することを期待されました。設立以後の本財団は、一貫して、高等学校における実験を通じての学習を支援し、また、ナチュラルヒストリーの学術研究に助成を続けてきました。2024年3月までに、学術研究助成883件、高等学校への助成127件を実施しました。