公益財団法人 藤原ナチュラルヒストリー振興財団 | Fujiwara Natural History Foundation

2024.09.30 フォトコンテスト

第16回 フォトコンテスト開催【10月1日募集開始】

2024.07.29 高校生ポスター研究発表

第14回高校生ポスター研究発表(2024年度)オンライン開催のお知らせ

2024.07.25 シンポジウム

第16回シンポジウム 開催のお知らせ【参加申込締切りました】

2024.07.18 役員名簿

令和6(2024)年度役員名簿

2024.07.01 助成案内

高等学校助成募集案内 (2024年度)

2024.07.01 助成案内

学術研究助成応募要領 (2024年度・第33回)【7月1日申請受付開始】

2024.07.01 フォトコンテスト

第11回中学生・高校生フォトコンテスト開催

2024.06.27 決算報告

2023年度決算報告書

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高等学校(旧備品)助成対象者一覧(2023年度・第32回)

2024.06.05 助成案内

学術研究助成対象者一覧(2023年度・第32回)

2024.03.28 収支予算

2024年度収支予算書

九州シンポジウム「天変地異の時代〜火山列島に生きる〜」  レポート 2023.12.22

2023年10月15日(日)に、九州シンポジウムを開催いたしました。2名の財団理事等より寄稿されましたレポートを掲載いたします。


講師[1].jpg       上段左から: 田村芳彦・宮縁育夫/下段左から: 杉本伸一・清水 洋(敬称略)

 パネル4.jpg

       パネルディスカッションの様子(左端は司会の福島大輔)左から:杉本伸一・宮縁育夫・吉田茉莉子(敬称略)


【レポート1】矢島道子(東京都立大学非常勤講師・財団理事)

藤原ナチュラルヒストリー振興財団は自然史を普及するため、東京以外の地域でシンポジウムを開催している。第1回は2016年に神戸市(兵庫県)で、第2回は2018年に札幌市(北海道)で。第3回は2021年に仙台市(宮城県)で開催した。そして、今年は福岡市(九州)を予定した。九州でのシンポジウムは何をテーマにするべきか、やはり、活火山が17個もある(全国では111)火の国・九州だから、「天変地異の時代〜火山列島に生きる〜」にしようと、現地参加とオンライン参加のハイブリッド方式で開催した。

ナチュラルヒストリーの古典『博物誌』を書いた大プリニウスはヴェスヴィウス火山噴火の調査中、亡くなっている。それからほぼ2000年も経て、火山研究はどこまで進んだのだろうか。講演は下記4題であった。

・田村芳彦(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海域地震火山部門)『日本列島は火山の噴火で生まれた!』 実際の岩石やら地形やらを紹介しながら、最近の火山研究の最前線(ホットフィンガー)の紹介をされた。

・宮縁育夫(熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター)『阿蘇カルデラはどのような噴火でできたのか? 』 阿蘇カルデラをくまなく歩いた講演者が、やっぱり、そのうちカルデラ大噴火があるだろうと話された。

・杉本伸一(公益財団法人 雲仙岳災害記念財団 雲仙岳災害記念館)『火山とともに生きる 』雲仙岳ではいろいろな災害があってもやっぱり火山に生きると言い切られた。

・清水 洋((九州大学名誉教授・ 国立研究開発法人 防災科学技術研究所 火山研究推進センター)『火山噴火の予知はできるか?』 火山の噴火予知はできそうに見えるけれど、火山の噴火は多様なので時々裏切られるとくやしそうに話された。

講演の後のパネルディスカッションは、実際に阿蘇、雲仙岳、桜島を研究している人、そこに住んでいる人に集まってもらった。福島大輔(NPO法人桜島ミュージアム)コーディネーターのもと、宮縁育夫、杉本伸一、吉田茉莉子(桜島ジオサルク)のパネリストが、「火山を楽しみ、火山と共に暮らす」という日常生活に接した話になった。実際に火山が噴出しているところ、あるいは夜間に火山が輝いて噴出しているのを見ると、火山観は変わるようだ。文豪ゲーテもそうだった。火山は日本列島全体に分布しているから、そこに住んでいる私たちは、よきにつけ、悪しきにつけ、何らかで火山に関係している。どうやって生きていくのかを突き付けられた感じだった。

地方シンポジウムだが、遠隔地からオンライン参加した方も多かった。それでも、地方シンポジウムの凄さ、対面の凄さは、研究者に直に会えること。岡山から新幹線に乗って駆け付けた参加者もいた。時間が足りなくなり、フロアやオンラインの質問に回答できなかったので、シンポジウム後の懇親会でとっくり対話してもらった。


【レポート2】大久保奈弥(東京経済大学 全学共通教育センター 教授・財団評議員)

秋晴れの日曜日、アクオス福岡のホールにて、九州シンポジウム「天変地異の時代〜火山列島に生きる〜」が開催されました。開会の辞は矢島先生です。プリニウス噴火(プリニー式噴火)から始まったお話、恥ずかしながら私は知らなかったのですが、プリニウスとは、ローマ帝国時代の初期に『博物誌』という百科事典を書いた著名な博物学者です。軍人でもあった彼は、79年にイタリアのカンパニア州にあるヴェスヴィオス火山で噴火が起こった際、現地調査と救助に赴き、不幸にも火山性ガスに直撃されて亡くなられました。日本でも雲仙普賢岳の噴火で海外の研究者が亡くなられましたし、私も学生時代に危険な海況での調査を経験しましたので、フィールド研究者は時に死と隣り合わせとなるのだと改めて感じました。

さて、最初の講演はJAMSTECの田村芳彦さんで「日本列島は火山の噴火で生まれた」です。大陸と海洋底はそれぞれ安山岩と玄武岩の地殻から構成されるのですが、田村さんらの分析から、例えば西之島のように地殻が薄いところは圧力が低いので安山岩マグマが、地殻の厚いところは圧力が高いので玄武岩マグマができると考えられ、「大陸は海で形成される」という新説を発表されたそうです(Tamura et al. 2016)。私は貴石好きなので、余談で話された「かんらん石はペリドット」に驚き、是非とも採掘にいきたいと思いました。

2番目の講演は熊本大学の宮縁育夫さんで「阿蘇カルデラはどのような噴火でできたのか?」です。阿蘇山の研究をされる宮縁さんによると、火山の噴火様式には名前がつけられており、阿蘇山では圧噴火、ストロンポリ噴火、水蒸気噴火の3種類が観察されます。現在、中岳のみ活火山であり、その火口であるカルデラには温泉が溜まっていますが、なんとその温泉、火山ガスや岩石から溶け出した成分などが溶け込み、pH0.4という強酸性だそうです。その湖に落ちたことを考えるだけでも恐ろしく、また何よりそのpHを測定した研究者を心から尊敬しました。これまでに4回起きた阿蘇山の噴火ですが、その火山灰はなんと1700km離れた北海道でも観察できるとのこと。阿蘇の噴火後すぐに屈斜路の火山が噴火したので、うまいこと阿蘇の火山灰がカバーされて保存されたそうです。

3番目の講演は、雲仙岳災害記念館長の杉本伸一さんで「火山とともに生きる」です。杉本さんは1970年に島原市役所に入庁し、雲仙・普賢岳噴火災害を体験されました。その後、被災住民100人余りから聞き取りした証言集「そのとき何が」(2001年)を自費出版され、ご経験を活かして火山防災エキスパートとしても活躍されています。雲仙普賢岳は山岳信仰の場としても有名ですが、1792年、地獄跡火口の噴火を契機に直下型火山性地震が発生し、島原市西側にある眉山が崩壊し、1万5千人もの死者が出ました。「島原大変肥後迷惑」という言葉は皆さんもご存知の通りですが、それから198年たった1990年、雲仙普賢岳の噴火がまた開始しました。私は本シンポの前日、朝日新聞の記者さんと諫早湾干拓事業(これも大きな環境問題です)の視察をしたのですが、その記者さんによれば、ちょうど噴火の頃、新聞テレビ各社は鹿児島県徳之島の伊仙町で起きた町長選挙トラブルの取材に入っていたそうです。しかし、雲仙普賢岳が噴火して火砕流が起きたという知らせが入り、その記者さん以外は全員すぐに火災現場へと転戦したそうです。雲仙普賢岳の噴火がいかに大きな災害であったのか、現場メディアの様子からも窺えます。そして、1995年にようやく火山活動が収束し、少しずつ復興が進んで今日に至るわけですが、杉本さんのお話で特に印象的だったのが「噴火によるプラス面の創造」です。普賢岳は確かにマイナスの災害を生んだけれども、その災害で人々の連携というプラスの創造ができたと。その連携を用いて、島原に火山都市国際会議を招致し、島原半島ユネスコ世界ジオパークとして認定をとり、ついには、第5回ジオパーク国際ユネスコ会議(2012)を開催するに至りました。通常、このような大規模自然災害では被害だけを考えがちです。しかし、その災害を経験された方々自らが、噴火を自然のもつ生命の働きとして「しょうがない」と受け入れ、新たな物心の創造をおこなっていく姿勢には非常に感銘を受けました。哲学者の佐伯啓思さんの論考の中に「日本人の持っている自然観からすれば、人間社会に大きな災いをもたらす自然災害であっても、そこには人間の理解の及ばない自然の働きがあり、だから「シカタナイ」といって忍従するほかない、ということになろう。その自然への忍従の姿勢は、ある意味で「うまくあきらめる術(すべ)」でもあった(朝日新聞・異論耕論、2023年9月30日)」と書かれていたのを思い出しました。自然災害に「勝つ」という西洋的思想ではなく、受け入れて共生するという島原の人々の思想は、まさに昨年、昆明・モントリオール生物多様性国際会議枠組の中で2050年ビジョンとして設定された「自然と共生する社会」のモデルケースと言えるのではないでしょうか。島原だけでなく、全国の小中学校で、火山災害をはじめとした自然災害に関する学習を必修にした方が良いと改めて思いました。

そして最後の講演は、司会進行も務められていた九州大学の清水洋さんで「火山噴火の予知はできるか?」です。一貫して、噴火予知の難しさを謙虚に述べられていましたが、それは、雲仙普賢岳の噴火時に採取した清水さんのデータにより当時の現場対応が決まり、しかも住民の命もかかっていたという、我々には想像できないほどの重責を担われ、今もなお防災科学技術研究所の火山研究推進センターの責任者でいらっしゃるからでしょうか。清水さんは、毎年地元の方達と普賢岳に防災視察登山をされ、日頃から地元自治体や住民らと危機意識を共有されています。科学者としてデータを採取するだけでなく、防災減災を考えて社会貢献までされるご姿勢には尊敬の念を覚えます。現在、日本には111もの活火山があり、この先少なくとも十年後くらいには、大正時代と同規模の桜島噴火が起きるとのことです。

そして、第2部はパネルディスカッションとなり、桜島ミュージアムの福島大輔さんの進行で始まりました。福島さんはブラタモリにも出演された火山学者で、桜島そのものを博物館と捉えて、地元での研究から教育まで幅広く携わっています。他のパネリストは宮縁さん、杉本さん、火山女子(ボル女)の吉田茉莉子さんです。なんと、吉田さんは東京で中学校の理科教員をされていたのですが、桜島のことが好き過ぎて移住してしまったとのこと。吉田さんによれば、地元では桜島を家族みたいに思っている人が多く、「今日は(桜島の)機嫌が悪いからねえ」と話したりするそうです。杉本さんも、雲仙普賢岳のことを「普賢山じゃなくて普賢"さん"だから」と話されており、パネルディスカッション全体を通して、皆さんの「火山への愛情」を感じました。余談ですが、吉田さんの応援に火山女子"くらりん"さんもお越しになり、お二人で火山が噴火するスライドを見て「きゃー!(萌える)」と叫んでいらっしゃったのは非常に印象的でした。


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当財団は、ナチュラルヒストリーの研究の振興に寄与することを目的に、1980年に設立され、2012年に公益財団法人に移行しました。財団の基金は故藤原基男氏が遺贈された浄財に基づいています。氏は生前、活発に企業活動を営みながら、自然界における生物の営みにも多大の関心をもち続け、ナチュラルヒストリーに関する学術研究の振興を通じて社会に貢献することを期待されました。設立以後の本財団は、一貫して、高等学校における実験を通じての学習を支援し、また、ナチュラルヒストリーの学術研究に助成を続けてきました。2024年3月までに、学術研究助成883件、高等学校への助成127件を実施しました。