公益財団法人藤原ナチュラルヒストリー財団第6回シンポジウム「大地に刻まれた生命の自然史」感想 2015.01.12
大地に刻まれた生命を化石のことだと想像する方は、幼児期に覚えたカタカナ言葉に恐竜の名前があったことだろう。恐竜展の入場者数を見ても、化石の代表は、子どもから大人まで、大好きな恐竜といって間違いない。しかし、大人になると日進月歩の最新の恐竜情報からいつの間にか取り残されていたりする。一方、私は、脊椎動物が出来てきた頃の進化に興味があり、5億数千万年前の、生物多様性が出現した頃のカンブリア紀の化石にも思いを馳せたい。いずれにしても、太古の生命への関心が、今はいない生物を大地に見出すことの面白さ、そこから垣間見ることができる進化の道筋、そして激しく変動する自然を物語ってくれる。本シンポジウムでは、第一線の研究者が地球、大地と海、それらに時間を加えたダイナミックな自然史の世界を展開した。
磯崎行雄先生(東京大学)は、何回かにわたる生物の大量絶滅と多様化の講演であった。今までに大絶滅は5回あり、よく知られているのは恐竜絶滅で有名なK-T境界である。講演では、より壊滅的な被害であった証拠が最近見つかった古生代/中世代(P-T)境界が紹介された。2億5200万年前のP-T境界で、古生代末の海に棲んでいた無脊椎動物の70%以上の種が絶滅し、陸上の植物や昆虫も被害を受けたという。さらにP-T境界はより大きな絶滅の最終段階でもあったという。現在の地球の環境変動は長い目でみればどういう状態なのだろうか。過去から現在を知る意義は大きい。地球規模の絶滅の状況と要因に関する研究の進展を期待したい。
清家弘治先生(東京大学大気海洋研究所)は、生痕-大地に記録された生物の行動-について講演された。地面や海底に住む生物の巣穴を破壊せずに観察するにはどうするか。たとえば、深海底で海洋研究開発機構の潜水艇がマジックハンドで上手に穴に樹脂を入れるところが紹介された。固まってから樹脂を取り出すと、見事に枝別れした長い根のような形が現れた。ついでに生物まで入っていれば、持ち主がわかる。これらの大地に刻まれた現在の生命は、過去とも共通点のある生活様式であり、この観点で生痕化石の古生態を解明しようとする研究である。今をよく理解することは、過去を知ることである。
藤原慎一先生(名古屋大学博物館)は、骨の形からどこまで分かる?陸棲脊椎動物の前肢姿勢というお話しであった。大昔の四肢動物が手足をどう使っていたかは、化石の復元、すなわち生前の姿を明らかにするために大事であり、這うか、歩くか、立つか、で姿勢が違ってくると聞き、なるほどと納得する。現在の骨格形態の研究から姿勢判断の指標がわかり、絶滅四肢動物の前肢の姿勢が正しく復元できるようになった。博物館の絶滅哺乳類の展示室で、彼らが正しい姿勢で動き回っている姿を見られる時がくるのかもしれない。
矢部淳先生(国立科学博物館)は、恐竜はどんな森にくらしていた?-化石から探る日本の植生史-を講演された。恐竜に比べれば植物の化石は大人しくて地味である。しかし、植物の化石からは、恐竜が生活し、食べ、繁殖した生きた環境がわかり、真にその時代を理解できるという。そして、植物の進化は動物の進化に大いに影響を及ぼしており、それはいつの時代も同じなのである。講演は福井県勝山市を例に、1億2千万年前の日本列島の環境が示された。被子植物が登場して植生が激しく変化した白亜紀の頃、恐竜だけでなく、その背景の景色にもこれからは注目したい。
午前中に発表を終えた高校生も熱心に講演を聞いていた。自然史の研究発表をした彼らが、今回の講演で研究最前線のワクワクする面白さを受け取って帰途に着いたことと思う。
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当財団は、ナチュラルヒストリーの研究の振興に寄与することを目的に、1980年に設立され、2012年に公益財団法人に移行しました。財団の基金は故藤原基男氏が遺贈された浄財に基づいています。氏は生前、活発に企業活動を営みながら、自然界における生物の営みにも多大の関心をもち続け、ナチュラルヒストリーに関する学術研究の振興を通じて社会に貢献することを期待されました。設立以後の本財団は、一貫して、高等学校における実験を通じての学習を支援し、また、ナチュラルヒストリーの学術研究に助成を続けてきました。2024年3月までに、学術研究助成883件、高等学校への助成127件を実施しました。