公益財団法人 藤原ナチュラルヒストリー振興財団 | Fujiwara Natural History Foundation

2025.12.01 シンポジウム

第17回シンポジウム「気候変動の自然史」(ハイブリッド形式)感想

2025.11.18 シンポジウム

金沢シンポジウム「能登からの発信」  レポート

2025.10.01 フォトコンテスト

第17回 フォトコンテスト開催【10月1日募集開始】

2025.08.01 シンポジウム

第17回シンポジウム 開催のお知らせ

2025.08.01 シンポジウム

金沢シンポジウム「能登からの発信」(ハイブリッド)開催

2025.07.29 高校生ポスター研究発表

第15回高校生ポスター研究発表(2025年度)開催のお知らせ★対面開催★

2025.07.28 助成案内

学術研究助成対象者一覧(2024年度・第33回)

2025.07.28 助成案内

高等学校(旧備品)助成対象者一覧(2024年度・第33回)

2025.07.18 助成案内

2023年度高等学校助成(旧備品助成)結果報告

2025.07.07 助成案内

高等学校助成募集案内 (2025年度)

2025.07.01 役員名簿

令和7(2025)年度役員名簿

2025.06.30 助成案内

学術研究助成応募要領 (2025年度・第34回) ※募集形態一部変更あり【7月1日申請受付開始】

第17回シンポジウム「気候変動の自然史」(ハイブリッド形式)感想 2025.12.01

藤原ナチュラルヒストリー振興財団第17回シンポジウムを、10月26日(日)に「気候変動の自然史」をテーマとして、会場(中央大学後楽園キャンパス)とオンラインのハイブリッドで開催した。

会場には一般の方のほか、高校生や大学生などの若い参加者の姿も多くみられた。

テーマ「気候変動の自然史」について、次の4人の演者により講演がなされた。伊藤昭彦先生「メタンは気候変動の影の主役?身近にもあるメタン発生源について」、中村修子先生「サンゴ年輪から人新世の環境変動を読み解く」、船田良先生「気候変動は樹木による木材の形成機構にどのような影響を及ぼすのか?」、樋口広芳先生「地球温暖化が鳥の生活に及ぼす影響」。各講演後には参加者と講師による質疑応答が行われた。

参加者から「いろいろと考えさせられる問題があった」「知識の整理と研究がわかりやすかった」などのご感想をいただいた。

今後も会場での参加のほか、全国からの参加が可能であるオンラインとのハイブリッド開催を検討したい。


東シンポ 2025-17 当日写真 サイズ変更.png

上段左: 伊藤 昭彦 氏  右: 中村 修子 氏  下段左: 船田 良 氏  右: 樋口 広芳 氏


【レポート】伊藤 元己 (東京大学名誉教授・財団理事)

藤原ナチュラルヒストリー振興財団は、2025年10月26日(日)、中央大学において第17回シンポジウム「気候変動の自然史」を開催した。今回のシンポジウムは、全世界的な課題である気候変動をテーマに、自然環境が受ける影響やその要因について、4名の専門家がそれぞれの立場から講演を行った。会場での対面とオンライン配信を併用したハイブリッド形式で実施され、多くの参加者が熱心に聴講した。

最初の講演では、東京大学大学院の伊藤昭彦氏が「メタンは気候変動の影の主役?―身近にもあるメタン発生源について」と題して登壇した。温室効果ガスの代表格として二酸化炭素が知られているが、伊藤氏はメタンの影響にも注目し、その発生源について解説した。シロアリなどの自然由来の排出に加え、天然ガスの利用、水田耕作、酪農など人為的な要因も大気中メタン濃度の上昇に寄与しており、対策の重要性を指摘した。

続いて、慶應義塾大学および明治大学の中村修子氏が「サンゴ年輪から人新世の環境変動を読み解く」と題して講演した。サンゴの骨格には年輪のような層構造があり、それを解析することで過去数百年間の気候や環境の変化を読み取ることができるという。中村氏はケニヤやツバルのサンゴコアを用いた研究を紹介し、海洋環境の変動や人間活動の影響を具体的なデータとともに示した。顕微鏡レベルでの地道な観察が、地球規模の気候変動を理解するための貴重な情報をもたらすことを強調した。

3番目の講演では、東京農工大学名誉教授の船田良氏が「気候変動は樹木による木材の形成機構にどのような影響を及ぼすのか?」をテーマに発表した。木質バイオマスは二酸化炭素の固定に大きく貢献しており、その形成には樹木の形成層の活動が深く関わっている。船田氏は、気温や降水量などの気候条件が形成層の活動に影響を及ぼすことを解説し、気候変動の進行に伴って木質バイオマスの形成がどのように変化するかについて展望を示した。

最後に、東京大学名誉教授の樋口広芳氏が「地球温暖化が鳥の生活に及ぼす影響」と題して講演した。樋口氏は、温暖化による鳥類の渡来時期や繁殖時期の変化を長年の観察記録をもとに解説し、さらにハチクマなど渡り鳥に装着した衛星発信器による追跡データから、温暖化の進行による渡り経路や生息域の変化を予測した。こうした変化は鳥類だけでなく、他の動植物との関係性にも影響を及ぼしていることを指摘した。

今回のシンポジウムでは、気候変動という身近で深刻な課題を多様な角度から捉え、各講演者がそれぞれの専門分野に基づいて科学的かつ具体的な知見を示した。単に現象を報告するだけでなく、その背景となる要因や対策にも踏み込んだ内容であり、参加者に多くの示唆を与えるものであった。気候変動を理解し、その解決や適応策を考えるうえで、自然界の長期的かつ継続的な観察がいかに重要であるかを改めて実感させるシンポジウムとなった。自然史科学が果たす役割の大きさを再認識する、有意義な一日であった。

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当財団は、ナチュラルヒストリーの研究の振興に寄与することを目的に、1980年に設立され、2012年に公益財団法人に移行しました。財団の基金は故藤原基男氏が遺贈された浄財に基づいています。氏は生前、活発に企業活動を営みながら、自然界における生物の営みにも多大の関心をもち続け、ナチュラルヒストリーに関する学術研究の振興を通じて社会に貢献することを期待されました。設立以後の本財団は、一貫して、高等学校における実験を通じての学習を支援し、また、ナチュラルヒストリーの学術研究に助成を続けてきました。2024年3月までに、学術研究助成883件、高等学校への助成127件を実施しました。